ここ数年で業務用プロジェクターは、レーザー光源のラインナップが増え、明るさも4000lm以上のモデルが大半を占めるようになり、設備の大小に関わらず高機能な製品を選定することが可能になってきました。とは言え、プロジェクターは、コスト的にも機能的にも設備の中心となる機器ですから、できる限り設置環境に合った適切なものを慎重に選びたいところです。今回は、「プロジェクターの明るさ」をテーマに、機種選びのポイントなどをまとめていきたいと思います。
明るさの単位 ANSIルーメン
プロジェクターの明るさを示す単位は、アメリカの規格協会であるANSI(American National Standards Institute)が定めたANSIルーメン(lm)が国内でも標準的に使われています。一般的には、単に「ルーメン」と呼んだり表記したりしています。
投写⾯を縦横3×3の9分割にし、各中心部の明るさを計測して平均照度(lx)を出します。それに投写⾯の⾯積(㎡)を掛けたものがANSIルーメンです。
ANSIルーメン(lm)= 平均照度(lx)× 投写⾯積(㎡)
このANSIルーメンは、2000年前後から国内メーカーのカタログ表記等で統一されるようになりましたが、それ以前は計測方法などにバラつきがありました。
必要な明るさの目安
小さい会議室なのか大きな会議室やホールなのか、部屋の大きさによって目安となる明るさを紹介しているWebサイトやカタログ上の情報がありますが、これは必ずしも「大きい部屋=明るいプロジェクター」ということではなく、スクリーンの大きさ(投写面積)によってプロジェクターの明るさを検討するということです。
プロジェクターの明るさの目安は、次の計算式で求めることができます。
プロジェクターの明るさ(lm) = 投写面輝度(cd/㎡)× 投写面積(㎡) × 円周率 ÷ スクリーンゲイン
※スクリーンゲインとは
スクリーン生地の反射特性を数値で示したもので、標準拡散反射板と呼ばれる測定用の白色板に光を当てた時の輝度を1とした時のスクリーン生地の輝度比率。
この計算式を基に投写面サイズごと(16:10)のプロジェクターに必要な明るさを表にまとめてみます。尚、投写面輝度は液晶ディスプレイの標準的な明るさ同等とし350cd/㎡、スクリーンゲインはホワイト生地の標準的な値として0.9を採用してみます。
表から100インチと200インチのそれぞれの必要な明るさを比較すると、約3500lmと約14000lmで値が4倍になっていることがわかります。インチサイズが2倍になると面積は4倍になり、光の強さが4分の1になるためです。
尚、この表に記載している必要な明るさは、あくまで目安であることを前提としてください。部屋の環境等によって、明るく感じたり暗く感じたりします。その辺りを実際に検証してみましたので見ていきましょう。
[検証]部屋の環境と見え方
社内にプロジェクターのデモ機と会議室で使用している液晶ディスプレイがありましたので、そちらで実際に検証を行ってみました。
6500lmのプロジェクター、ゲイン0.9のスクリーンを使用した場合に350cd/㎡の輝度を確保するには、どの程度の表示サイズとなるか。プロジェクターの明るさを求める計算式を利用して求めると、およそ135インチ程度となります。
この検証では、6500lmのプロジェクターを135インチ相当のサイズに投写し、部屋の環境(明るさ)を変えて映像の見え方を比較してみます。尚、検証を行った5階の会議室は、照明が蛍光灯、北側窓で天候は曇りでした。
- プロジェクター仕様
光源 レーザー 6500lm / 解像度 1920×1200(WUXGA)/ 表示素子 3LCD - 液晶ディスプレイ仕様
輝度 500cd/㎡ / 解像度 1920×1080(フルHD)/ 52型
※いずれも新品ではない為、カタログ上のスペックよりも性能は落ちている可能性があります。
部屋を暗くした[A]の環境では、液晶ディスプレイ(左)とプロジェクター映像(右)は、かなり近い明るさと色の濃さで表示されていますが、[B]、[C]の環境では、プロジェクター映像(右)が明らかに白っぽく色も薄く感じられ、コントラストが低くなっていることがわかります。
JIS Z 9110:2010における維持照度の推奨値は、事務所の会議室が500 lx(ルクス)、学校の教室が300 lxとしています。また、学校環境衛生基準(文部科学省)では教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値を300 lx、教室及び黒板は、500 lx 以上が望ましいとしています。
明るい環境での利用が前提である場合は、計算上よりもスペックの高い機種を選定する方が良いでしょう。逆にカーテンで遮光をしたり照明を消したりして、暗い部屋の環境をつくることできれば、プロジェクターの明るさはそれほど高いスペックでなくても十分使用できるでしょう。(映画館のスクリーン輝度は、48cd/㎡が基準とされています)
表示素子タイプ、スクリーン生地
プロジェクターの明るさについては、ルーメンの数値だけでなくプロジェクターの表示素子タイプについても確認しましょう。3LCDや3チップDLPに比べ1チップDLPについては、色の鮮やかさが落ち暗く見えます。1チップDLPはカラーホイールを使用している構造上、カラーの光出力が弱くなる為です。カタログ上のスペックでは、同じルーメン数であっても、表示素子によってカラー表示が暗くなる場合があることを覚えておきましょう。
その他、ゲイン値の高いスクリーン生地を選ぶことで輝度を上げる方法もありますが、一般的にゲイン値が高いスクリーンは、視野角が狭い(斜めから見ると暗くなる)ことが多い為、部屋の形状や座席の配置などによって効果が得られやすい場合に採用を検討するとよいでしょう。
おわりに
光源は使用時間に伴い徐々に劣化し出力が弱くなっていきます。一般的にレーザー光源はおよそ20000時間、ランプ光源は数千時間で明るさが半減します。長期的に使用する設備では、その辺りを見越して選定する必要もありそうです。
光源寿命以外にも、ここまでにいくつもポイントをあげてきましたが、機器のスペックが上がれば、それだけコストも上がっていきます。プロジェクターの明るさは、性能と環境の両方が関係するものですので、利用時の環境づくりやメンテンスなども意識しながら、設備の重要性やコストのバランスを考慮して機種を選ぶことが大切です。