仙台駅よりバスに乗り、「工学部中央」で下車すると、目の前には、芝生と木々、建物が共生しているような空間が広がっています。その建物が今回ESCがAV設備を納入した工学研究科・工学部中央棟です(以下、中央棟)。
東北大学工学部はすべての学科が青葉山キャンパスにあり、今回の中央棟は5学科の建物のまさに中央に位置しています。学生へのサービスレベルの向上や、学部の連帯感が増すような建物を目指しており、講義室以外にも食堂・売店・事務室が集中しています。学生へのワンストップサービスを実現し、名実ともに中央棟と名付けられました。
東日本大震災の影響を受け、工期は約3カ月遅れ2011年の6月に竣工しましたが、講義開始となった5月には、先行で大講義室の運用が開始されました。この度、工学部中央棟に導入されたAV設備をご紹介致します。
本プロジェクトのポイント
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東日本大震災の影響を受けながらも2011年6月に竣工
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大講義室には230インチのスクリーン2面、大会議室には会議用マイク設備を導入
アプローチ
大講義室
大講義室は、2面のスクリーンを用いた教室です。プロジェクタは教室後方の壁面内に設置され、意匠的にも目立たない配慮がなされています。また、天井面の仕上げに合わせ、天井スピーカを設置せず、すべての音声を前方のラインアレイスピーカで拡声します。角度調整が可能なスピーカで、教室に合わせた指向性を実現することができます。大講義室では通常の講義以外にも、退職される先生の最終講義や、特別講義を行うことも予定されており、クリアな音声録音ができるよう配慮がなされています。
大会議室
大会議室は、教授会をはじめとした重要な会議が行われます。会議のために全席に取り外し可能なグースネックマイクが設置されています。また、無線LANを使用した投票機が用意されており、アンケートや、実際の投票にも活用される予定です。これは、他講義室でも活用できるよう持ち運びに便利なものが選定されました。
また、教室としての利用も可能なように、大講義室と同様の映像設備が設置されています。スクリーン面数だけでなく、操作性も大講義室と合わせた形態になっており、ユーザーの負担を軽減しています。
中会議室
中会議室は、入室した時に一番驚かされました。外光が差し込まなくても、天井面3分の2以上が照明で、いつでも昼間のような明るさを実現しています。省エネなのに明るく快適です。その照明器具の隙間を縫ったように、プロジェクタが設置されています。また、会議内容の機密性を高めるために、赤外線ワイヤレスマイクが採用されました。
中会議室からテラスに出ると、イベントにも対応できるテーブルが配置されています。このテーブルは、建物と統一感があるようにデザインされています。
大講義室で最終講義を行った後、このキャンパスが一望できる場所でパーティーが開かれる。そんな素敵なストーリーがここで生まれる予感がしました。
震災を経て
「元気・前向き 東北大学」これは、東北大学が展開している復興広報キャンペーンのキャッチフレーズです。東日本大震災で770億円もの被害をうけたといわれる東北大学は、今でも勉学にいそしむ学生の傍らで、復旧を急ぐ工事が続いています。
旧帝国大学の中でも、県外の学生が多く、様々な国籍の学生も集うダイバシティに富んだ東北大学は、大学再開後1カ月で復興広報キャンペーンを開始しました。東北大学のホームページには、動画もアップされています。
被災し、建物が崩落しているなか、被害状況を調査し、仮設校舎を計画し、移動や整理を行い、何とか大学が再開できるまでの環境が整ったそうです。
お話を伺った佐藤先生は、建築計画のプロジェクトチームで大変お世話になった方です。震災後は家族の食糧を調達するのにも苦労する時期があったそうですが、中央棟をはじめキャンパス内の被害状況の調査や復興計画に取り組まれたそうです。
現在、学生達も被災地へ訪問し、ボランティアだけでなく、実地調査やヒアリングを行っています。この悲劇を悲しみ、憂うだけでなく行動へと移し、自ら発信していく教育機関に、明るい未来が重なって見えました。
「元気・前向き 東北大学」非常に平易な言葉の連なりですが、自らを信じ、東北地方ひいては、日本を信じる気持ちが込められているように感じます。