2010年4月、同志社中学校と高等学校が統合した。中高統合事業のシンボルともいえる岩倉キャンパスのグレイス・チャペル。そのAV設備導入に当社は携わることが出来た。
今回のAV設備では音に重点を置いた構築が為されている。取材に当たり、高等学校総務主任の山形先生と、音響プロデュースを担当されたヤマハ株式会社・高橋様の両名に、改めて特徴を説明して頂いた。まずは高橋氏に一般的なチャペル音響の特徴をお聞きした。
本プロジェクトのポイント
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中高統合事業のシンボルともいえる岩倉キャンパスのグレイス・チャペルにAV設備を導入
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チャペル特有の長い残響、そして多様なイベント運営に対応する為に音響設備に様々な工夫がされている
アプローチ
「天から音が降り注ぐかの様な厳かな音の響きがチャペル音響の特徴です。これは長い残響時間によって生み出されます。しかし、残響時間が長くなれば音の明瞭度は低下し、話す内容が聞き取り辛くなるという欠点があります」
なるほど、朝の礼拝に必要な残響を重視すると、式典やイベントの運用が成り立たない。かといってチャペル特有の響きの無い空間では意味がない。この2つの運用を両立させるべく、今回の計画では大きく分けて3つの手法を用いている。
1. ラインアレイスピーカ
「残響時間が長いので、機械音響は兎に角明瞭度を高くする必要があります。そこで、距離による音の減衰が少ないラインアレイスピーカを採用し、聴く人の耳へダイレクトに音を届けることで、残響時間の長い空間でも、高い明瞭度を確保しています」 因みに、近年日本のチャペルでは、ラインアレイスピーカの導入が主流になりつつある。
2. スピーカ内蔵説教台
反響の強い空間の為、聴衆の意識が前方の講演者からそれ易い。そこで講演者の立つ説教台からも音を拡声させることで、聴衆の意識を集める工夫が施されている。
3. 移動式スピーカシステム
「学園祭では生徒によるミュージカルや、演劇部の一人芝居などのイベントを行います」 と山形先生。演劇部が文部科学大臣賞を受賞するなど、かなり本格的な活動をされている。設備もそれに対応できる物をと、固定設備とは別に移動式スピーカを用意。広い音域の表現を可能としている。
工夫は音響面だけではない。調整室に立ち入らずとも、舞台袖にあるコントロールパネルの電源をONにすれば、マイクの運用が可能である。他にも説教台に設けられたマイクフェーダ、舞台袖での映像切替など、ユーザビリティを考えた構築も特徴だ。
本来は相容れない長い残響と、明瞭度の高い拡声。しかし、水と油を混ぜる石鹸水の如く、最新の技術と、気配りの利いた構築をもって共存させる。そこにシステム音響の楽しみがあるのではないか、そんなことを感じた取材となった。